「おろすよぉ」
「は〜い」
ゴブリンをやっつけた後、僕たちはベニオウの実がなってる木のとこまで来たんだ。
でね、いつものように登り棒を作って、今はそれを使って登った僕とお兄ちゃんたちが、下にいるお姉ちゃんたちやニコラさんのところへ採って実を入れたかごを下ろしてるんだよね。
「しかし、見事なものですね」
そんな僕たちを見ながらね、バリアンさんはお父さんにすごいねって言ったんだよ。
「ん、何がだ?」
「この棒ですよ。魔法であっという間に作ったのもそうですが、軽装のルディーン君だけじゃなく、革製とはいえ防具を着けた息子さんたちまでするすると登っていくのですから」
バリアンさんは前にベニオウの実を僕と一緒に取りに来たことがあるから、僕が登り棒を作れることや、それで木の上まで登れるこてゃ知ってるんだよ。
でも、今日はお兄ちゃんたちも一緒に登ってるでしょ。
だからそれを見たバリアンさんは、防具を着たまんまで登り棒を登ったお兄ちゃんたちの事を凄いなぁって思ったんだってさ。
「そんなに難しい事か?」
「それはそうですよ。革鎧は金属のものよりも軽いですけど、硬い上に滑りますからね、腕力だけで登れるのなら別ですが。彼らのように手足を使って登ろうと思ったら、それを想定したうえでの技術が必要じゃないですか」
登り棒って、棒を足で挟んで体を支えながら登ってくでしょ?
だから革のブーツや腰のとこの装備を着けてると、それが滑って登りにくいんだって。
それに革と言っても鎧だから、普通の服より重いもん。
だからそんなのを着てたら、普通は登れないんだよってバリアンさんは言うんだ。
「ふむ。確かに足で棒を締め付ける力はある程度いるだろうけど、そんなに難しい事か?」
でもね、そんなバリアンさんにお父さんは、そんなに難しい事じゃないよって言って、
「ほら、こんな風にすれば体を支えるのは簡単だろ?」
目の前の登り棒に捕まると、ちょっと登ってから両手を離したんだよ。
そしたらそれを見たバリアンさんはびっくり。
何でかって言うとお父さんはブラウンボアとかを狩ったりもするから、お兄ちゃんたちのと違っていろんなところに金属が使われてる鎧を着てるんだよね。
それにお父さんは大人だから、体も僕やお兄ちゃんたちよりおっきいでしょ?
そんなお父さんが足だけで登り棒にくっついたもんだから、バリアンさんは何でそんな事ができるのさっておっきな声で聞いたんだよ。
「カールフェルトさん、何故その装備でそんな事ができるんですか!」
「いや、何故って言われても」
「重装備とまでは言わないですけど、どう考えても俺が着ているものよりも重いですよね、それ。そんなものを着て、普通はそんな事できませんよ」
でね、そのまんまおっきな声で騒いでたもんだから、僕、木になって下の方を覗き込んでみたんだ。
そしたらお父さんが登り棒にくっついてるんだもん。
だから下にいるお父さんに聞いてみたんだ。
「あれ? お父さんも登ってくるの?」
「いや、ちょっとやってみただけだよ」
そしたら違うよって言うんだもん。
だから僕、じゃあ何でそんなことしてたのかなぁって思って、一度下に降りてく事にしたんだ。
僕がするするぅって登り棒を降りてったらね、何でか知らないけどバリアンさんがごめんなさいしてきたんだよ。
「ルディーン君、作業の邪魔をしたようで申し訳ない」
「? 僕、邪魔されてないよ」
「いや、大きな声で騒いでいたから」
バリアンさんはね、おっきな声を出してたからごめんなさいってしてくれたんだって。
だから僕も大丈夫だよってお返事。
「気になったから降りて来たけど、すぐに登れるからへっちゃらだよ。でも、何でおっきな声を出してたの?」
「いや、カールフェルトさんが重い鎧を着ているのに足だけで体を支えていたものだから、それを見てつい」
僕はね、何でそんな事でおっきな声を出したんだろうって頭をこてんって倒したんだよ。
でもすぐに、そう言えば前にバリアンさんたちと一緒に来た時、エルシモさんが自分たちじゃ登り棒に登れないって言ってたのを思い出したんだ。
「そう言えばエルシモさんも、僕が棒だけで木の上の方に登ってけるのはすごいねって言ってたっけ」
「ああ。うちのパーティではあいつが一番身軽なんだが、そのエルシモでもこの棒を登るのは無理だと言っていたから、カールフェルトさんが登れると聞いて驚いてしまったんだよ」
「俺からすると、その方が不思議なんだが。木に登れないと、木の実や果物なんかを採る事ができないじゃないか」
「えっ!? カールフェルトさん、果物を採る事があるんですか?」
イーノックカウの冒険者さんって、動物や魔物は狩るけど果物とかを採る事は無いんだって。
だからバリアンさんはお父さんが木に登って果物を採るって聞いて、すっごくびっくりしてるんだよ。
でもね、僕の村だと森に入ったら誰でも木の実とか果物を採ってくるから、僕とお父さんもバリアンさんのお話を聞いてびっくりしたんだ。
「そもそも、今日は本来、俺たち家族みんなでベニオウの実を採りに来る予定だったこと、忘れてないか?」
「僕たちの村には果物屋さんなんかないから、みんな森で採ってくるんだよ」
そんな僕たちのお話を聞いて、バリアンさんはだからこの棒も簡単に登れるんだねって。
「なるほど。木の実や果物を採るのも、村での生活の一部なんですね」
「ああ。子供の頃から木に登っているから、うちの村のものだったら誰でも登れるぞ」
それからお父さんは、バリアンさんに村の人たちが普段どんなことをして暮らしてるのかを教えてあげてたんだよ。
でもね、
「お話が盛り上がっているところを悪いんだけど、そろそろマジックバッグに採れたベニオウの実を入れてもらえないかしら」
「あっ、すみません」
そこにお母さんが来て、ベニオウの実がたまってきてるからマジックバッグを出してって言いに来たんだ。
だからバリアンさんは慌てて背負ってたバックパックからマジックバッグを取り出したんだけど、その時に何かに気が付いたようなお顔をして僕にこう聞いてきたんだ。
「そうだ、ルディーン君。マジックバッグにベニオウの実を入れてみるかい?」
「えっ、いいの? やったぁ!」
前にルルモアさんから借りてブレードスワローを獲りに来た時は、お父さんがみんな入れてたんだ。
だから僕、初めてマジックバッグに物を入れられるって喜んだんだよ。
でね、バリアンさんと一緒にベニオウの実が並べてある枯れ草のとこに行くと、早速一個拾って入れさせてもらったんだ。
「わっ! しゅぽって入っちゃった」
「マジックバッグに物が入るのは、何度見ても不思議な光景だよな」
普通の袋に物を入れる時って、上から入れると底にそのまんま落ちてくでしょ。
でもマジックバッグだと、しゅぽって吸い込まれるような感じなんだよね。
だから僕、それが面白くって何個か入れてたんだけど、そしたら近くにいたキャリーナ姉ちゃんが僕ばっかりずるいって言ってきたんだ。
「ルディーン、私も入れてみたい」
「うん、いいよ。僕、いっぱい入れたからキャリーナ姉ちゃんに変わってあげるね」
だからベニオウの実を入れる係は、キャリーナ姉ちゃんに交代。
僕はその横でベニオウの実がマジックバッグに入ってくとこを見てたんだよ。
そしたらさ、バリアンさんが持ってるマジックバッグにちっちゃな魔石が何個かついてる事に気が付いたんだ。
「あっ、このマジックバッグにも黒っぽい紫色の魔石がくっついてる」
「ん? ああ、これか。あまり見た事のない色の魔石だけど、多分この色の魔力属性のおかげでこんな不思議な袋ができてるんだろうな」
バリアンさんはね、あんまり魔道具の事には詳しくないから、この紫色の魔石が何の属性なのか知らないんだよって言うんだよ。
だから僕、これが何の属性なのか教えてあげる事にしたんだ。
「あのね、これは時空間って属性の魔石なんだよ」
「聞いた事が無い属性だな。どんな効果があるんだい?」
「あれ? そういえば、何に使う属性だっけ?」
確か前にルルモアさんに借りた時も、鑑定解析で調べた時に何に使う魔石だったのか思い出せなかったんだよね。
だから僕、頭をこてんって倒して考えたんだよ。
そしたらさ、すっごくいい考えが浮かんだんだ。
「そうだ! 何に使うのかなぁって考えながら使ったら解るかも!」
僕の鑑定解析、何にも考えないで使ったらそれが何なのかって解るだけなんだけど、これが知りたいって思いながら使ったらもっと詳しい事が解るんだよね。
だからこの魔石も、知りたい事を考えながら鑑定解析をかければ、きっともっと詳しい事が解るはずなんだ。
「でも、何を調べたいって思ったらいいのかなぁ?」
せっかくいい事を思いついたのに、何を調べたいのか解んなかったらダメでしょ?
だから僕、それを一生懸命考えてたんだけど、
「おーい、ルディーン。いつまでも遊んでないで、早く上に登ってきてベニオウの実を採るのを手伝え!」
「あっ! うん、今登ってくよ」
ベニオウの木の上からディック兄ちゃんに手伝ってよって言われちゃったもんだから、僕はバリアンさんに行ってくるねって言ってご挨拶して木の上へ。
そのままお兄ちゃんたちとベニオウの実を採ってるうちに、僕は時空間属性の魔石の事なんかすっかり忘れちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君、マジックバッグの秘密に迫るチャンスをまたも逃してしまいました。
前と違って鑑定解析の使い方が解っている今なら、前回調べた時に解らなかったことがいろいろ解るんですけどねぇ。
その中でも特に袋に使われてる生地がどんなものなのかは、結構重要な情報だったり。
まぁ、それが解っても前回同様素材を手に入れる事ができないのでマジックバッグ自体を作る事はできないんですけどね。